東京家庭裁判所 昭和38年(少)3252号 決定 1963年3月13日
少年 H(昭一八・一一・一一生)
主文
少年を医療少年院に送致する。
理由
一、罪となるべき事実
少年は、
昭和三八年○月○日午後一〇時すぎ頃から、友人の○本○と共に、東京都江東区××町□丁目一八九番地バー「△△」において、飲酒していたところ、翌○月○日午前零時すぎ頃、右○本が同店支配人利○明○と飲食代金のことで口論を始めたのをみて、右利○の態度に激昂したものであるが、同店内カウンター後の床上に燃焼中の石油ストーブがあり、酔余の状態にある少年にとつて、十分足元に留意してストーブを倒すような危険な行動にでないように十分注意すべきであつたにも拘らず、不住意にも右足で右ストーブを蹴とばして床に倒してしまつた重大なる過失により、右ストーブから灯油が流れ出し床一面に燃えひろがり、たちまち板壁などに燃え移り、さらに近隣住宅などに延焼した結果、現に人の現在する住宅、店舗など三棟(約一九九四平方米)を全焼し、同一棟(約一五〇平方米)を半焼し、その際前記小島所有の家屋二階に就寝中の○所○雄(当四一年)を焼死させたものである。
二、適条
刑法一一七条の二後段、一一六条第一項、一〇八条
刑法二一〇条
三、医療少年院に送致する理由
少年は、中学卒業後直ちに東京都内において就職するも、職場を転々とし、昭和三七年八月以降は博徒△△組の輩下となつて煙草の景品買に従事して当庁に事件が係属し、同年九月二五日に郷里の父母のもとに帰住することを条件とし在宅試験観察に付された。観察の結果は良好で生活態度もよくなり再犯の危険性はないとして不処分となつた。ところがまもなく上京して就職したところ友人とともにバーに行き酒を飲み本件非行となつたものである。本件非行の社会に与えた影響は看過しえず、とくに自らの過失により人間の生命を奪つてしまつたことを考えあわせると、少年の責任は非常に大きいものといわなければならない。しかしながら、少年は今迄に保護処分を受けたことなく、前記試験観察中の経過が良好であつたことさらに少年が深く改悛の情を示し保護者が遺族に対し慰藉の万法を講じたことなどを考えあわせると、少年に対しては刑事処分よりもむしろ保護処分を課するべきである。
鑑別結果によると、少年は長期間にわたる加療を要するてんかんと先天性梅毒の疾病を有し、性格的には自己中心的で自信がないのに虚勢をはるといつた面もありその行動は常に落着きなく軽卒である。上記の如き諾点が本件非行の原動力をなしているものと認められる。
よつて少年を医療少年院に収容して医療措置を加味した矯正教育を与えることを相当と認め少年法条二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 伊藤博)